昇温脱離水素分析装置ESCO-TDS600 IR H2
昇温脱離水素分析装置 ESCO-TDS600 IR H2昇温脱離水素分析装置 ESCO-TDS600 IR H2は
昇温脱離水素分析装置 ESCO-TDS600 IR H2は、高感度な質量分析計を搭載し、金属材料やめっき皮膜から放出される数ppbレベルの微量な水素を正確に測定する装置です。
本装置は、質量分析計方式(真空型)でありながら、「ふたを閉めてスタートボタンを押すだけ」という初心者でも扱える簡単な操作性を実現しました。
新材料開発から製造現場における品質管理まで、目に見えない『遅れ破壊』のリスクを確信ある定量データへと変換して、次世代のものづくりを強力にサポートいたします。
自動車骨格イメージ高強度材料を脅かす、わずか数ppbの「拡散性水素」
超高強度鋼などの鋼材の突然の破断(遅れ破壊)を引き起こす要因として、金属内を動き回る「拡散性水素」が注目されており、わずか数ppbのその存在が材料の信頼性を大きく脅かします。
材料の安全性評価においては、ISO 3690やAWS A4.3などの水素測定に関する国際標準規格が広く活用されています。
しかし、水素が引き起こす破壊現象は極めて複雑であり、材料の高強度化や使用環境の過酷化が進む中、最先端の研究開発や製造現場では、規格に基づく基本的な評価だけでは、実際の引張試験などで生じる微細な遅れ破壊の挙動を完全には説明しきれないケースが生じています。
より高度な安全性を担保するためには、遅れ破壊の直接的な因子である拡散性水素やより強くトラップされた水素を現場で即座に、かつppbレベルで精緻に見極めることが求められます。本装置は、国際規格による信頼性の高い評価体制を強力に補完し、新しいものづくりへの一歩踏み込んだ知見を提供します。
分析装置選びのジレンマ
従来、「質量分析方式」は高精度であるが「ガスクロ方式」に比べ高額であり、「ガスクロ方式」は相対的に精度(精度ですか?感度ですか?)が低いという課題がありました。
ESCO-TDS600 IR H2は、このような課題を解決した画期的な装置です。
高感度と高い定量性を保ちながら、独自の設計により、超高真空装置でありながら優れた操作性と低導入コストを実現しました。
| 比較項目 | ESCO-TDS600 IR H2(電子科学) | ガスクロ方式(大気圧型) |
|---|---|---|
| 分析方式 | 超高真空・質量分析計 | 大気圧・ガスクロマトグラフ |
| 測定感度・定量性 | ○高い(副次反応なし・ppbレベル) | △懸念あり(副次反応のリスク) |
| 操作の簡便性 | ◎簡単(直置きしてボタンを押すだけ) |
◎簡単(真空チャンバー不要) |
| データ取得スピード | ◎高速(1秒に1回) |
△(数分に1回程度) |
| ポジション | 質量分析計の高感度・高精度とガスクロ方式の手軽さを両立 | 手軽 |
研究室から「製造現場」へ良否判定をスピーディに実現する実用モデル
ESCO-TDSシリーズのハイエンドモデルESCO-TDS1200II IRと比較して『ESCO-TDS600 IR H2』は「現場サイトでの手軽さ」と「研究室レベルの性能」を両立したモデルです。
現場で手軽に良品・不良品の判別(拡散性水素量の概算比較)を行いたいという、品質管理の最前線の要求に合致した装置設計になっています。

1. 初心者でも可能な「簡単な測定操作」
本装置は高真空でありながら、試料の真空搬送を必要としません。
試料を加熱チャンバー内の石英ステージ上に直接置き、ふたを閉めてスタートボタンを押すだけで測定を開始できます。
作業者の熟練度に関わらず安定した運用が可能です。
2. 圧倒的な「ハイスピード検出」がもたらす、信号形状の保持と精密解析
本装置は1秒に1回の検出スピードを誇り、これはガスクロ方式(大気圧型)の数分に1回の検出速度と比べ、実に300倍の速さです。
ガスクロ方式では、水素ガスのカラム分離に時間を要するために、昇温速度を速くすることが原理的に困難です。
そのため、標準的な昇温速度は100℃/h程度に制限されるという構造的な課題があります。
一方、質量分析計を採用する本装置は検出頻度が1秒に1回程度であるため、検出頻度による昇温速度の制約が生じません。
この高頻度サンプリングの最大のメリットは、昇温速度を速く設定した場合でも、きめ細かい本来の昇温脱離信号が得られ、「真のピーク温度(Tp)」を逃さず捉えられる点にあります。
表:測定方式による検出温度分解能の比較
| 検出温度間隔 | ||
| 昇温速度 | ESCO-TDS600 IR H2 1秒に1回の場合 |
ガスクロ方式 5分に1回の場合 |
| 100℃/h(1.67℃/min) | 0.028℃ | 8.3℃ |
| 300℃/h(5℃/min) | 0.083℃ |
25.0℃ |
| 600℃/h(10℃/min) | 0.167℃ |
50.0℃ |
図-1図1:【比較】検出頻度の違いによる水素ピークの取り逃がしシミュレーション
図-1のグラフが示す通り、低い検出頻度(図-1では5分に1回、約50℃間隔)では、約196℃付近にあるピークを捉えられていません。
TDS600では水素脱離ピークを正確に捉えることが可能です。
大気圧型(ガスフロー式)3.超高真空測定による「副次反応の排除」
一般的なガスフロー方式では、フローガスや試料から放出されたガスと試料が反応し「試料由来ではない水素」が発生する可能性があります。
本装置は超高真空下で測定を行うため、これらの副次反応を根本から排除し、真の水素放出量のみを正確に捉えることができます。
水素標準試料4. 信頼性の高い「水素の感度校正」
本装置の質量分析計は米国立標準技術研究所(NIST)推奨の標準リークにより校正された水素標準試料を用いて校正されます。
図-2【ESCO-TDS600 IR H2 分析事例】
■無電解ニッケルめっき(5μm)中の水素分析と脱水素処理の評価
「厚み5μmの無電解ニッケルめっきから放出される微量な水素挙動を測定し、脱水素処理(ベーキング)の条件による水素残存量の違いを比較した事例です。
図-2:無電解ニッケルめっきの水素昇温脱離プロファイル(加熱なし、100℃、150℃、200℃の4条件)
[測定条件]
•昇温速度: 10℃/min(600℃/h)
•検出スピード: 0.5秒に1回(120 data points/min)
グラフは以下の4つの条件における水素放出プロファイルを比較しています。カッコ内の数値は測定時の総放出水素量であり、言い換えると「各脱水素処理後にニッケルめっき皮膜に残った水素量」を表しています。
①脱水素処理を行っていないもの(残存水素量:44ppm)
②真空環境にて:100℃で120分間加熱(残存水素量:19ppm)
③真空環境にて:150℃で60分間加熱(残存水素量:13ppm)
④真空環境にて:200℃で15分間加熱(残存水素量:11ppm)
この結果から、「処理温度が高ければ、加熱時間が短くてもより多くの水素が抜け、脱水素処理効果が高い(皮膜に残る水素量が少ない)」ことが読み取れます。
600℃/hという速い昇温速度を設定した場合、一般的なガスクロ方式のような低い検出頻度(例:5分に1回=50℃間隔)では鋭いピークの頂点を捉えることが困難です。
しかし本実験では0.5秒に1回という圧倒的なハイスピード測定を行うことで、5μmの薄膜からの急峻な水素放出ピークを逃さず捉えています。
最適な製造プロセスの決定など、現場の品質管理に直結する確信あるデータを提供します。
【基本仕様:ESCO-TDS600 IR H2】
・最大試料サイズ:30×30×30mm
・放出H2感度:ng/g(ppb)
■分析チャンバー
・H2検出器:質量分析計(2~4Da)
・圧力計:BA-ピラニコンビネーションゲージ(計測範囲:5×10⁻⁸~1×10⁵Pa)
・温度計:試料ステージ熱電対(Type K)
・チャンバー:容量10L、到達真空度≦1×10⁻⁶Pa
■加熱制御
・制御温度範囲:室温(RT)~600℃
・制御昇温速度範囲:0.5℃/分~180℃/分
・昇温ステップ数:最大100ステップ
・加熱源:1kWハロゲンランプ
■ソフトウェア
●測定ソフトウェア
・リアルタイムモニター:水素信号強度(m/z 2~4)、測定時間、圧力、温度
・設定機能:簡単な質量分析計パラメーターの設定、昇温プログラムの設定
・自動測定開始/停止機能:(MS信号強度、測定時間、圧力、温度に基づく制御)
・支援機能:感度校正の支援機能
●データ処理ソフトウェア
・グラフ表示:温度グラフ、圧力グラフ、TDSスペクトル、マススペクトル
・バックグラウンド補正:最小値、指数関数、スプライン、ファイルBG
・データ出力:CSV形式出力(m/z2,3,4信号強度、時間、圧力、温度、温調出力、脱離速度)
